【北海道発・女性フェルト作家】仙台出身、札幌在住の丹治 久美子さんが紡ぎ出す、ぬくもりと愛しさが詰まったフェルトバッグの世界

羊毛と異素材が奏でる優しいハーモニー。目指すものは、人が持って初めて完成する大人のバッグ

 エスダムスメディアJAPANでは、「ベンチャー・女性の活躍・地方活性化」をキーワードにライター独自の視点による特集記事を配信しています。今回は、北海道札幌市で活動する女性フェルト作家、丹治 久美子さんを特集します。
 筆者が丹治さんの作品に出会ったのは、2016年。偶然SNSで見かけた鳥型のフェルトバッグにすっかり心を奪われ、メッセージを送ったところ、お返事をいただき…それから丹治さんのお人柄とその世界観に魅了され続け、早7年。この魅惑の丹治ワールドをより多くの方に知っていただきたく、今回取材をさせていただきました。筆者と共に沼にハマっていただけたら幸いです。

  • 【フェルト作家 丹治 久美子 公式サイト】 https://tanjikumiko.com (外部リンク)

    プロフィール紹介
    丹治 久美子(たんじ くみこ)さん
    宮城県仙台市生まれ。北海道札幌市在住。
    20代前半で札幌に移住し、偶然出会った羊毛の面白さに惹かれ、フェルトメイキングに取り組む。2013年に看板商品のトリ型のフェルトバッグがフランス版マリクレール・イデー主催”le salon de creation savoir-faire”(※)で入賞し、同年のクリスマス特集99号に掲載される。2021年にはAIR DO(エアドゥー)の機内紙に北海道を代表するクラフト作家として紹介される。現在、全国の百貨店のポップアップショップ、公式サイトECショップなどで作品を販売する傍ら、全国各地でワークショップを開催している。

    ※ “le salon de creation savoir-faire” https://www.creations-savoir-faire.com (外部リンク)
    フランスのマリクレール・イデーが主催する、年に一度の手芸見本市。様々な手芸作品の展示のほか、200㎡にも及ぶ会場には約250もの手芸ショップが集まる大イベント。

    今では看板商品ともなっているトリ型のフェルトバッグが掲載された、フランス版マリクレール・イデー、クリスマス特集99号。バッグの模様にはそれぞれタイトルが付けられており、掲載されたものは「sheep sleep/一生とけないアメ玉」と名付けられています。

     

    • 創作フェルトバッグについて 

       丹治さんが手がけるフェルトバッグは、羊毛の特質を活かした手法で製作されています。羊毛を薄く何層も重ねて、アルカリ性の石鹸水と手の摩擦のみで縮絨しており、ふわふわの原毛から、ハサミや針を使わずに、平面から立体に成形します。羊毛は、日本で染色した上質なメリノウールを使用しています。模様になるパーツも一から作っています。

       「完全にフェルト化する前の『プレフェルト』という薄いフェルトシートを作ることにより羊毛が布状になるので、それを切ったりしてパーツになる模様の材料を作ります。形状や用途の違う綿やシルクを使い、羊毛と混ざると、どのような縮み方をするか実験しながら縮絨しています。綿やシルクは、羊毛と絡み合って縮んでいくと、直線的な糸は羊毛に引っ張られて波模様になったり…プレフェルトは、ベースになるふわふわの羊毛と混ざって複雑な色を作り、面白い表情を見せてくれます。実験と経験の積み重ね…何度作っても新しい発見があります。模様には、タイトルがついていて、お話が想像できる様に制作しています。私のフェルトバッグは、人が持って完成するバッグです。お使いいただく方に色んな側面で楽しんでもらえたらとても嬉しいです。」

     

    筆者も参加した、芦屋で行われたワークショップの様子。縮絨作業はかなりの体力と根気が必要。散りばめたプレフェルトのモチーフを、丁寧に心を込めてベースの羊毛に絡めていきます。丹治さんが一から指導してくれるので、初心者でも安心!「自分の作りたいモノ」のイメージ作りからサポートしてくれます。長時間に及ぶ作業は、イメージを形にする喜びで自然と夢中になり、あっという間に過ぎていきます。一人一人の「作りたい」が形になるまで、丹治さんはずっとそばで寄り添ってくれます。

     


    筆者がSNSで見かけ雷に打たれた様な心地になったのは、この画像。受賞作品でもある「sheep sleep/一生とけないアメ玉」のトリバッグでした。アクセサリー感覚で連れて歩きたくなる、とても遊び心がある創作フェルトバッグです。

     

     

    • 看板商品になった トリバッグ

       風景に溶け込むように、使う人もまたそれを見る人も楽しんでもらいたい♡という思いから生まれたトリバッグ。

      -トリ型バッグを作成することになったきっかけを聞かせてください。そしてこの形をチョイスしたのは何故ですか?
      丹治さん)
       15年くらい前の話ですが、札幌の地下鉄コンコースに設置されているガラスのウィンドウで展示する機会がありました。一日に3万人もの往来があるコンコースなので、人が通行する場所で邪魔にならず、景観として人の目が楽しめて風景に溶け込む「何か」を模索している時に、友人からお土産で頂いた「鳩サブレ」がありました。
       あ~、トリの形のバッグなら、通行の邪魔にならず、見ても楽しい気持ちになるかな?と思ったのがきっかけでした。
       外は雪一面の白銀の世界でしたが、通行する人の服装といえば、黒など冬の上着で少し色味に寂しさを感じていたので、カラフルな色で温かさを感じるバッグを制作しようと思いました。初めは売り物ではなく、あくまでもディスプレイの一環としての「トリバッグ」でした。
           
           
      ―丹治さんの考える、トリの魅力とは?
      丹治さん)
       コンコースでの展示は予想外に好評で、とても楽しんでいただけた様でした。市役所や地下鉄の事務所に問い合わせが多くあったそうです。きっかけは「鳩サブレ」でしたが、思わぬところのトリバッグ。鳥のイメージは、自由の象徴…その形は、人が持っても楽しく、またそれを見る人も楽しめます。
       人が、見てほっとする形ってあると思うんです。例えば、リンゴなどもそうで女性は特にですが、一般的に好きな造形だと思います。トリもリアルなものというよりはシルエットだけで「自由に空を飛べる様な」イメージができますし。“可愛い”という感覚は、無敵です!

       今となっては、鳥の形にして良かったんだと思います。鳥の他に形はないんですか?と聞かれる事もありますが、鳥以外の形は作らないんです。シルエットのイメージとかろうじて顔があるので、それを持って歩けるトリバッグは、一緒にお出かけできてお供してくれる友達の様な存在。珍しさから「それ、どうしたんですか?」と知らない人に声をかけられる事もあるそうで、「トリバッグの後ろに天使がついてくる」と言われたことがあります(笑)トリバッグは、コミュニケーションのツールにもなるんだという事を後から感じました。

       今では、小さなお子さんから90歳のおばあちゃんまでの幅広い年齢の方に楽しんでいただいておりますが、形以外にも、フェルトはテキスタイルなので、布地には既製品とは違う力強さがあります。模様もオリジナルで、全て手作業の一点ものです。1枚フェルトで縫い目もない所にフェルトの価値も感じていて、この様な作り方は、機械では製作できず手作業のみ。平面から立体に作り上げられる所も面白いです。フェルトは縮絨なので、完成に向かうほど小さく縮んで形も変わっていきます。色も同様に、ベースになる色が模様の色を巻き込んで、色がどんどん変化していきます。素材は違いますが、絵の具の様な感じです。このような制作の変化の過程が楽しく、この素材を入れたらどの様に変化するのかな?という素朴な疑問の探求心には、私の飽きっぽい性格に向いていて、今も飽きる事がありません。飽きっぽい性格の私がこれまで続けて来られたのも奇跡ですが、この様な「飽きないもの」に出会えた事が私にはラッキーで、想像は、日々の私の暮らしを充実させてくれます。それを持って楽しんで下さる方がいるという事にもこの上ない幸せを感じています。


          
      ―ご自分の世界観を余す所なく表現でき、それが職ともなった「フェルト」との出会いを聞かせてください。
      丹治さん)
       遠い昔のことで忘れてしまったけど、珈琲が大好きでカフェ巡りをたしなむ20代の頃。いつものカフェに行ってみると、入り口付近の小さなコーナーに謎の布…。
      「これ、何ですか?」「フェルトです」「はぁ????」

       私が知っているフェルトとは、マスコットを作るポリエステルのフェルトで「フエルト」という名の商品名。カフェで出会ったお手製の「フェルト」は、起毛していて素朴だけど、その佇まいは温かさの中に力強さも感じられて、直ぐにその素材の事が知りたくなりました。今では、手芸店に行けば当たり前の様に売っている羊毛ですが、この時代は、手芸店では毛糸しか取り扱いのない時代。直ぐに、作家さんに会いに行く運び。近々、講習会を開催するという事で、さっそく参加しました。一度興味を持つと、知りたくなるしつこいタイプです(笑)

       羊毛の束を見るのも不思議だったけど、羊毛の特質としては、羊毛を薄く縦とか横に並べて石鹸水をかけて手の摩擦だけで縮む(洗濯機でセーターを洗ったら縮む)というシンプルな原理。私が知らなかっただけで、アジアやヨーロッパでは定番的に盛んで、正倉院の宝物の中に「フェルトの敷物」があるほど歴史も古く、「フェルト法」という技法でテキスタイルの一つです。羊毛を縦と横に薄く何層も重ねて、石鹸水と手の摩擦で縮む…頭ではわかっているけどやっぱり不思議でなりません。ならば他の素材を混ぜたらどうなるんだろう?特に、何かを作りたいというよりもこの素材の事が知りたくなり、羊毛に異素材を入れたらどんな風に変化するか、実験は数年続きました…実験をして遊んでいたんだと思います(笑)そのうち、何か形にしてみたいと思うようになりました。フェルトの特質としては、針やハサミを使わずに、平面から立体に袋状に出来る様でした。途中、限界まで縮めてみようと、ここでも実験は続き…自分の好きなテイストを見つけました。

       フェルトは、作り手の数だけ色んなテイストがあり、どれも間違いではないんです。薄い羽の様なフェルト地を作る人もいれば、私の様に厚めでぽってりしたテイストが好きだという人もいます。何とも不思議で自由な素材です。フェルトに出会ってから、今年で28年になりますが、まだ新しい発見もあるし、失敗もありますが、本当のところは失敗なんてないんです。フェルトは、知れば知るほど奥が深く、今でも不思議で、自分の中の宇宙に繋がっている様です。

       

      ―仙台出身の丹治さんが、今では北海道を代表するクラフト作家として活動されるまでになられましたが、そのきっかけを聞かせてください。
      丹治さん)
       短大まで仙台で過ごした私が北海道に興味を持ったきっかけは、私が中学の頃に家庭教師を担当してくれた、当時東北大学の国文学の学生だった恩師が北海道出身だったという事で、北海道の大自然の話、食べ物など…私がまだ行ったこともない私の知らない土地「北海道」の話をよくしてくれました。帰省の際のお土産で買ってきてくれた食べ物や前田真三の写真集…美瑛の美しい風景。私が見たこともない世界を教えてくれました。勉強だけじゃなく、成績が上がれば、ご褒美にカフェに連れて行ってくれたり、本の一説を贈ってくれることもありました。7歳年上の女性…それまで、家族や同級生しか交流がなかった未熟な人生に他人が介入して、他人だからこそ、先生が言う事は素直に受け入れられたりして。恩師は、大学を卒業してから北海道三笠市の小さな町に高校教師として赴任することになりました。

       私が高校生になってからは、高校の修学旅行でも行先は北海道で、釧路で見た大きく蛇行する川や湿原には本当に感動しました。その頃にいつか住んでみたいと、この広大な大自然…北海道に憧れを抱くようになりました。

       短大生になる頃には、今とは違って携帯電話もなく、連絡先がすっかり分からなくなり、自分も少し大人になって、恩師とも疎遠になっていきました。しかし卒業とともに、憧れた北海道に移住を決意。とはいえ…北海道に住んで何かやりたいわけではなく、若かったので無計画に発進してしまいました(笑)しかも、札幌に住んでみると生活するのに必死で、昔憧れた道東の釧路を訪れるのに20年もかかりました。それくらい、遠い所です。

       何のとりえもなく無計画に北海道に移住したものの、28年前に偶然に出会った「フェルト」により、この12年はフェルト作家として活動していて、全国でのイベントに出展するようになっていました。これも、偶然で、東京から札幌に転勤して来た女性(当時の三越のゼネラルマネージャー)が私の作品を目に留めてくれました。伊勢丹と三越が統合する前の年の事です。この頃は、百貨店も新しい方向性を探っていて、今までの百貨店にないものを模索している時代で、後の「手作りブーム」と手仕事が取り上げられるようになりました。私が制作した「トリ型」のフェルトバッグは、当時は珍しく、ブームに乗った感じで露出が増えていきました。大人気というわけではなく…出展を重ね、少しずつ時間と共にコアなお客様が増えていき、ネットの普及で、私の名前も検索するとヒットするようになって。そして恩師がある時、思い出したように私の名前を検索したら、色んな画像が出てきて、その中には私自身の画像もあり「この子は、あの時の教え子…久美子ちゃんだ!」と確信したそうです(笑)私宛てに突然に届いた1通のメールで空白が一気につながりました。そして昨年、30年振りに札幌三越の自分の展示会にて再会を果たしました。私も、いつも気にしていて、先生は何処にいるんだろうと、この30年再会を望んでいました。

     北海道に根ざし、その地で「手しごと」を極める丹治さん。私たちの暮らしを彩る丹治さんの「手しごと」は、今では北海道を代表するまでに成長しています。2023年は、1月18日(水)~23日(月)に東京・日本橋三越本店にて開催される大北海道展での出店を皮切りに、全国各地でのポップアップショップの出店とワークショップの開催が予定されています。尽きることのない創作への探究心から生まれたフェルトバッグ達が、これからも多くの人々から支持され、またその存在が丹治さんの更なる造形の進化を支えていきます。

    フェルト作家 丹治 久美子(たんじ くみこ)
    HP https://tanjikumiko.com
    Instagram https://www.instagram.com/tanjikumiko/
    FB https://www.facebook.com/ktanji

    (お問い合わせは、HP内フォームまたは各種SNSにてお願いします。)

    ■編集後記
     「大好き」を形にし、それを世界各地の人々に繋ぐ丹治さんは私の憧れです。丹治さんのフェルトに注ぐ無限の熱量を、今回の取材でより深く知ることができました。お話をお聞きすればするほど、宇宙のように果てしなく広がる丹治さんの創作の世界。まるで不思議の国に迷い込んだアリスの様な気持ちで記事を書かせていただきました。

    ■ライタープロフィール
    Sachienne(金沢市在住)
    大切にしている事は、家族を大切にそして自分の人生を楽しむこと!
    コロナ禍を転機にすべく、楽しみながら仕事が出来るエスダムスメディアJAPANへ飛び込み、自分の新たな可能性を見つけられたらと日夜励んでいます。

    会社概要

    エスダムスメディアJAPAN株式会社

    所在地:石川県金沢市森山1-2-1 FW202

    業種:サービス業—PR業務

    電話番号:050-3204-0372

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