【ウガンダでの支援・女性活動家】金沢星稜大学 准教授 坂井 紀公子さん特集
ウガンダの紛争後地域で難病と共に生きる人々が自立できるよう環境を整えたい
エスダムスメディアJAPANでは、「ベンチャー・女性の活躍・地方活性化」をキーワードとした特集記事を配信しています。今回のテーマは「女性の活躍・地方活性化」です。筆者が以前に取材をした珈琲焙煎士 広瀬さん(※1)から、珈琲の産地でもあるアフリカ・ウガンダの地域研究と現地でのボランティア活動をされている、金沢星稜大学(※2) 人文学部 准教授 坂井 紀公子さんをご紹介いただき、今回取材を依頼しました。ウガンダの現実に真摯に向き合う坂井さんの活動と思いをお伝えします。











※1 関連記事 https://sdums.net/news/6033 (外部リンク)
※2 金沢星稜大学 https://www.seiryo-u.ac.jp/u/ (外部リンク)
坂井 紀公子(さかい きくこ) さん
大阪府出身、大阪育ち。
2018年より金沢市へ移住し、金沢星稜大学 人文学部 国際文化学科で教鞭をとる。
専門は、アフリカ地域研究・文化人類学・人文地理学。
取材場所とさせていただいたのは坂井さんの研究室。新しくて瀟洒(しょうしゃ)なキャンパス内にある坂井さんの研究室に一歩足を踏み入れると、そこにはアフリカの文化が薫る書物と小物達で満たされた素敵な空間が。坂井さんのセンス溢れる研究室でワクワクするお話をたっぷり聞かせていただきました。
-アフリカの研究をされることになったきっかけをお聞かせください。
坂井さん)
学生時代に受けた、アフリカの都市の研究をされていた先生の講義がとても面白かったことがきっかけです。日本で生活している私たちには想像もつかない価値観がそこには存在しています。例えば、ノミやダニとの共存生活が当たり前だからこそ、平均的な日本人よりも頻繁に水浴びをする人々。国(政府)が必ずしも国民を守ってくれるわけではなく搾取の対象にもなるため、自衛や自助、互助の精神を強く持っている人々。ストリートで巧みな技をもって物乞いをするため、職業だなぁとプロフェッショナルを感じさせる人々。自分の考えていた貧しさはまだまだ序の口だったなど、さまざまな現実を知りました。そして、それを現地で生で感じたいと思い何度もケニアへ渡るようになりました。
学部生のころ、ケニア農村部の日常生活を体験すべく、下宿して畑仕事や水汲みなどさせてもらっていました。
調査場所であった地方都市の公設市場。卸売市場で農産物の売買を調査していました。
特にジャガイモ商人たちの仕入から販売に密着調査させてもらっていました。
アフリカの地域研究を深めるためにケニアへ何度も渡られていた坂井さん。ある時、お世話になった教授からウガンダで自立を促す支援をする活動への声かけがあり、これまでアフリカ諸国で多くの人に助けてもらってばかりだった自分が何かお返しできる機会になるのではと、2014年よりウガンダでのボランティア活動に参加することになったそうです。
-ウガンダでの活動についてお聞かせください
坂井さん)
ウガンダでは北部地域で20年に渡る内部紛争が起こっていましたが、国際刑事裁判所(International Criminal Court)を含む国際的な介入で2006年に停戦となっています。2010年より復興が始まりましたが大規模な国際的な支援は5、6年という限られた期間で行われることが多く、その後はわずかな支援組織による活動が継続されているのみで、人々は自力での復興を余儀なくされています。そのため現在も様々な問題を抱えており、紛争中から停戦直後にかけて多くの子ども達に蔓延してしまった「うなづき症候群(Nodding Syndrome)」も、北部地域が抱える大きな問題の一つとなっています。
「うなづき症候群」の原因は未だ不明で治療法が確立されていません。この病気の一番の特徴は、てんかん発作によって認知機能の低下や運動障害が進行していく点です。認知症のような症状といえば想像しやすいかもしれません。患者さんは発作を誘発する重労働を避ける必要があり、そのために、この地域の生活の糧である農作業に積極的に携わることが困難です。また、土着信仰の影響で、不幸は精霊や死者の霊によってもたらされると考えられることが多く、自分もしくは家族が病気に罹ったのは、霊が怒るような過ちを犯してしまったためと理解します。家計への貢献が思うようにできない、霊に対して過ちを犯したのかもという認識から、患者さんは自分の存在を卑下したり、家族は漠然とした罪の意識に苛まれながら生活しています。
そこで、まず紛争後のこの地域に入って、そこで暮らす患者さん家族の社会や地域性を把握することから始めました。そして、国から反政府勢力を輩出した地域とみなされているため必ずしも十分な公助が受けられない環境の中で、彼等は自助や互助を通してどんなコミュニティケアができるのかを一緒に考えています。その実現にむけての支援を、トライアルアンドエラーを繰り返しながら続けています。
患者さん家族で構成された住民組織とともに支援活動をしています。大きな木の下で活動ミーティングが開かれます。
住民組織の方々のお家を訪問し、聞き取りをします。
親睦を深めるのに抜群の効果がある共食パーティーを時々開きます。住民組織のメンバーだけではなく、その周辺の住民も招いて、野外でごちそうを作りつつ一緒に食べます。
-アフリカ(ウガンダ)への思いをお聞かせください
坂井さん)
アフリカは、日本人が想像する単なる「貧しい」という地域ではありません。豊かな国もありますが、圧倒的な貧富の格差が当たり前の場所がたくさんあります。そして全く想像も出来ない価値観の社会があります。格差の是正に対してあまりにも無力である自分の存在や、異なる価値観の是非を判断することのおこがましさを渡航の度に思い知らされます。例えば、病院に行けずにちょっとした病で命を落とすたくさんの子どもや大人たち。より良い人生を求めて次々とパートナーを変え、その結果教育を受けさせることができないくらい多くの子どもを持つ女性たち。10人の子どもがいたのに、7人を紛争や病で亡くした母親。あまりにも多くの死が日常にあるため、自分も死に対して麻痺してしまっていると感じることもあります。そんな生と死の生々しさを感じさせてくれるアフリカは、諦めや忍耐とともに、それだけでは終わらない創意工夫の精神と、その人生を楽しむ逞しさを教えてくれる場所でもあります。また、渡航を重ねることで、日本の生活の中での現象を複眼的に見ることが出来る経験と感覚をもらえています。20年以上の付き合いのあるケニアが第二の故郷だとすると、もうすぐ10年の付き合いになるウガンダは第三の故郷のように感じています。これら二つの故郷は、日本にいる時とは違って息が詰まる様な思いをすることがない場所だとも感じています。
-これからやってみたいことは何ですか?
坂井さん)
いま現地版の開発を行っている、てんかん学習プログラム(てんかんのある人が、病気をもつ他の人やトレーナーと意見交換をしながら病気についての知識や病気と向き合う方法について学ぶプログラム)を完成させ、まずは患者さん本人とその家族に正しい知識を学んでもらいたいです。加えて、身近にてんかん発作を起こす患者がいないためにそれらの病気について知識のない人々にも、興味をもって対応を学んでもらえる学習プログラムを提供したいです。そして、「うなづき症候群」やてんかんの患者さんが家族の一員として安心して暮らすための環境を整えたいと考えています。具体的には、てんかん発作を起こし倒れてしまうような場合には、現在使用している「かまど」では顔面から倒れて大やけどを負う危険性があるので、それを回避できてメンテナンスも自力で出来るタイプの安全な「かまど」を各世帯に設置できるように、技術と改良費を提供したいです。また、伝統的な養蜂を患者さんが行うことで彼等の収入源になるようにしていきたいです。
国外からの支援は、いつかは現地から離れる時がやってきます。一方的な支援だけでは、その地域の自助・コミュニティ内の互助の構築は難しいと考えています。支援と研究のためにずっと通い続けたいと思っていて、今はこちらから金銭や物品の支援を、あちらからは気遣いや言葉と慣習の教授を交換し合う双方向の付き合いをしていますが、いつか交換し合う内容が変わっていく双方向の付き合いが出来ると嬉しいなとも思っています。
現在使用している「かまど」:三石カマド。3つの石を並べるだけのものもあれば、穴を掘って中に石を並べるものもある。
導入したい安全な「かまど」:木炭と薪の両方が使える安全カマド。火が焚かれる場所はカバーされているので、利用者は火傷しにくい。
調査時の住処。住民組織の議長さんの敷地に建ててもらった小屋です。
調査休息日には、お世話になっている議長さんの娘さんたちに洗濯を手伝ってもらいます。
■編集後記
今回は「大学の先生」にお会いするということでとても緊張していましたが、言葉を交わしたその瞬間から、坂井さんのキュートなお人柄にすっかり引き込まれてしまった私です。研究室は坂井さんのセンスに満ち満ちた空間で、ずっといたくなってしまうような素敵なお部屋でした。(すっかり長居をして失礼してしまいました。)私がそれまでぼんやり描いていたアフリカという場所は、いろんな国に振り回されて困難な生活を強いられている国、というとても曖昧なイメージだったのですが、坂井さんが実際に調査されている土地や人々についての動画を見たりリアルなお話を聞き、私の中で視野が広がっていくのを感じました。穏やかに話される中にも情熱が溢れ出る坂井さんのゼミを受講できる学生さん達をとても羨ましく思いました。想像以上の貧困と困難を抱えながらもその中に楽しみを見つけ、日々逞しく生活しているウガンダの人々。物と情報に溢れる日本人に欠如してしまった目に見えない大切なものは、実は彼らの方がちゃんと持ち合わせていて、心豊かに生きているのも彼らの方なのかもしれない、といただいたウガンダ産の珈琲を飲みながら考える毎日です。
■ライタープロフィール
Sachienne(金沢市在住)
大切にしている事は、家族を大切にそして自分の人生を楽しむこと!
コロナ禍を転機にすべく、楽しみながら仕事が出来るエスダムスメディアJAPANへ飛び込み、自分の新たな可能性を見つけられたらと日夜励んでいます。
会社概要
代表者:山口 貴子
所在地:石川県金沢市森山1-2-1 FW202
業種:サービス業—PR業務
電話番号:050-3204-0372
関連URL
https://sdums.net/