「能登ヒバ×楽器」の可能性を追求するプロジェクト「ATENOTE」で地域材の新たな価値を創造する【フルタニランバー】代表 古谷 隆明氏特集
能登ヒバ楽器プロジェクトによる地域材活用に注力、林業・木材業界の活性化を目指す
エスダムスメディアJAPANでは「ベンチャー・女性の活躍・地方活性化」をキーワードとした特集記事を配信しています。今回のテーマは「地方活性化」です。
今回取材させていただいたのは、石川県金沢市を本拠地とし1904年に創業した歴史ある木材会社【フルタニランバー】5代目社長の古谷 隆明氏。筆者が以前に取材させていただいた、ウッドフレーム作家の角野 裁雄さんとのご縁でインタビューが実現しました。約7000坪ある広大な敷地の入口に建てられた事務所には多くの木材加工品が使用・展示されており、木材への情熱を感じる空間となっていました。
古谷氏のお話はとてもテンポが良く、引き込まれるようにお話を伺いました。その内容は日本における木材販売の歴史に始まり、時代とともに変化を遂げる【フルタニランバー】のさまざまな事業、そしてその中でも地域材である能登ヒバを楽器の材として活路を見出す、古谷氏のプロジェクトに対する熱い思いがたっぷり詰まったものでした。







【フルタニランバー】公式サイト:https://furu-tani.co.jp/ (外部リンク)
関連記事:https://sdums.net/news/6107 (外部リンク)
■プロフィール紹介
フルタニランバー株式会社
代表取締役社長 古谷 隆明(ふるたに たかあき)氏
2019年より同社5代目社長となる。コロナ禍に伴う世界的な木材価格の高騰「ウッドショック」など世界情勢が大きく変わっていく中、木材業界の変革にいち早く着手し、在庫管理におけるIoTの導入、独自の高速木材乾燥技術「woodbe」の展開、能登ヒバをはじめとする地域材への取り組み等を行う。また、内装のリフォーム職人を育成する学校「ハウスリフォーマー育成学校」を運営し、今の時代における社会課題の解決にむけた事業を積極的に展開している。
音楽が好きな古谷氏。もともとバンド活動をしていたことやレコード会社での勤務経験もあることから、能登ヒバを楽器に応用するプロジェクト「ATENOTE(アテノオト)」による地域材の活路を見出している。
「ATENOTE」専用HP:https://atenote.com/ (外部リンク)
さまざまな新しい事業の中でも特に、能登ヒバ楽器プロジェクト「ATENOTE」の活動はメディアで度々取り上げられ、地域に根差した木材会社であるフルタニランバーだからこそできる、地域材の活用モデルとして幅広く注目されています。今回はその「ATENOTE」にフォーカスして古谷氏のお話をご紹介します。
-能登ヒバ楽器プロジェクト「ATENOTE」を始められたきっかけを教えてください。
非建築分野における木材利用促進という意味で、「楽器の分野でやってみよう」と考えたのがきっかけです。私自身がもともとバンドをやっていて、さらにはレコード会社に勤務していた経験があります。当社の材は楽器の材にも使えるものがたくさんありますが、楽器メーカーの取引先がありませんでした。そのため、自身の経験を活かし関連業界に営業できるのではないか?という思いがありました。それに加え、自分が「好き」というのも相まって、楽器を自分で企画してみようと考えました。
楽器は身近なプロダクトですし、演奏できないという人は多いけれど、嫌いな人はいないと思います。音楽自体も嫌いな人はいないだろうし、音楽は人の心を豊かにしてくれます。この楽器事業自体が、当社の価値を一緒に届けるための一番良い商材なんじゃないかなと考えました。
また、「ATENOTE」というブランドを立ち上げましたが、このブランドで楽器を売るという事業ではなく、取引先として楽器メーカーさんに能登ヒバを提案する、という事業です。当社の木材屋としての本質は変わっていません。
スタートしたのは約3年前で、コロナ禍に突入した頃です。この事業は石川県産業創出機構(ISICO)(※)で実施している「いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド」に採択された事業です。本事業に採択されたことをきっかけに、いろんな楽器を作っていける態勢ができました。
※石川県産業創出機構(ISICO)HP:https://www.isico.or.jp/ (外部リンク)
-「ATENOTE」の由来を教えてください。
「アテ」は能登ヒバの別名で、素材の名前です。立木状態の木が「アテ」と呼ばれていて、加工され製品になった状態が能登ヒバと呼ばれています。もともとの素材を応援するという意味を込めて「アテ」という名を使用し、その音であるということで「ATENOTE(アテノオト)」と名付けました。「NOTE」自体も「能登」という響きに重なり、能登地方を連想することや、英語で音調を表す「NOTE」を意味するということで、この名前しかないと思い付けています。
-最初に作った楽器は何ですか?
一番最初に完成したのはエレキギターです。デザイン会社の株式会社雪花(せっか、石川県金沢市)(※)さんに作っていただきました。雪花さんにいらっしゃるギター職人さんともともと取引があり、この方と話しているうちに「能登ヒバで一緒に楽器を作りましょう!」という話になっていき、試作品がまず1本出来上がりました。こうしたきっかけから「ATENOTE」のプロジェクトがスタートしています。エレキギターからスタートし、その後いろんな楽器をリスト化して、「能登ヒバを楽器の材に使えないか?」という相談や提案を続けてきました。おかげさまで現在では約20種類の楽器が完成しています。ATENOTE専用ホームページがあるので、そちらで楽器のラインナップを紹介しています。
※株式会社雪花HP:https://secca.co.jp/ (外部リンク)

(左)Singular/エレクトリック・ギター (右)「ATENOTE」パンフレットに同封されている楽器カードは現在8種類
-このプロジェクトの目的を教えてください。
目的は3つあります。まず1つ目は、能登ヒバの音響効果を訴求することです。能登ヒバのもつ効果は水に強いことやアロマ効果、消臭抗菌効果というものがもともとあって、その効果を活かして商材化・商品化している会社はあります。しかし当社では、違う効果を実証して新たな利用シーンを作っていきたいと考えました。それが「ATENOTE」の音響効果です。
2つ目は、林業会社や木材会社を応援することです。このプロジェクトをきっかけに、木がもつストーリーや価値をもっと多くの人々に知ってもらい、この業界の活性化につなげていきたいということが2つ目の目的です。
林業会社は今、窮地に立たされています。木を扱う会社の中でも、木材加工や販売を行う会社は盛り上がっていますが、木を育て、森を作る林業がうまく盛り上がらないというのが現状です。誰も木こりをやりたがらない、管理する人がいないという人手不足の問題を解消するために、このプロジェクトを通して応援していきたいと考えています。
3つ目が、新たな楽器材としての価値の創造です。従来の楽器材は、二度と採れないような天然高級銘木といわれる木材が多く使われているので、材が枯渇しかけているんです。そのためギターやバイオリンなど、昔作られたものの方が価値が高いことがあります。良いとされてきた材がなくなりつつある今、サステナブルな木材を活用して良い音を出すことに価値を見出していこう、という目的がこの能登ヒバ楽器プロジェクトには込められています。
-能登ヒバはそのまま楽器材に使えますか?
2つ工夫があります。乾燥技術、圧縮技術というものを活用します。能登ヒバはもともと天然木ではなく植林木。人工的に植えている木で、成長が早いんです。成長が早いということは、木目が粗い。つまり年輪の幅が広く太いので、経年変化が出やすいんです。そのため「woodbe」という当社独自の高速木材乾燥技術を利用して経年変化を防ぎ、落ち着いた木材に仕上げています。もうひとつは、圧縮・硬化させることです。物理的に圧縮させると、木は硬くなって強くなります。また、反りにくく、割れにくくなります。この技術を使えば、例えばギターのネック(弦が張られた棹の部分)には本来、硬い木が使われますが、これに近付けるくらいの強度を出すことができます。この2つの工夫で能登ヒバを楽器材として使えるようにしています。他の楽器屋さんでは、ギターについてはボディ(胴体部分)の材だけ地元の木でやってみた、という例はありますが、おそらくネックの部分まで能登ヒバなどの地域材を使用した例はないのではないでしょうか。

独自の高速木材乾燥技術「woodbe」
「woodbe」専用HP:https://www.woodbe.jp/ (外部リンク)
-能登ヒバが本来もつ特性に、さらに工夫を加えることで楽器に適した材になるということですね。実際の楽器展開はどのようになっていますか?
エレキギターを皮切りに、アコースティック・ギターやエレクトリック・ベース、ラップハープ、バックロードホーンスピーカー、ドラムセットなどを展開しています。浅野太鼓楽器店さん(石川県白山市)(※)では、「能登ヒバ桶太鼓」として商品化していただきました。従来のスギに比べ曲げに強いため、胴を薄く加工することができます。その結果、振動が伝わりやすく、大きな響きを得られます。能登ヒバで太鼓を作ることは、実は常識では考えられなかったことなんですが、それを覆し商品化までたどり着くことができました。
製品の良し悪しについては、僕は樹種の個性だと思っていて、好き嫌いがあると思うんです。あくまで楽器なので、能登ヒバの音はこうだ、この樹種の音はこうだ、というふうに認知していただいて、評価していただければと思っています。

(左上)Singular/エレクトリック・ギター(右上)株式会社浅野太鼓楽器店/桶太鼓
(左下)koike drums / スネアドラム(右下)青山ハープ株式会社/ラップハープ
※株式会社浅野太鼓楽器店HP:https://www.asano.jp/ (外部リンク)
-これからの「ATENOTE」の展望について教えてください。
木材会社は本来裏方の仕事なので、木の価値を届けるために表舞台に出て、もう少し皆さんの身近なところで仕事をしたいなという思いがあります。
そういった意味でも、「ATENOTE」に関して色々なところから「メディアで見ました」と言っていただくことが増え、イベント関係でも声をかけていただけるようになったことはとても嬉しいことです。
金沢フォーラスさん(石川県金沢市)(※1)では、SDGs週間のイベントとして大手楽器専門店の島村楽器さん(※2)のイベントに参加させていただきました。金沢市で行われた「金沢ジャズストリート2022」(※3)とSDGs週間が重なり、多くの音楽関係の方から「ATENOTE」にお声がけをいただいたんです。達成感と爽快感を感じたこのイベント参加により、「ATENOTE」第1章をここで終えたな、と僕自身は感じていて、そして今、第2章に入っているのかなと感じています。
現在PR活動に力を入れており、イベント出展やミュージシャンへの提案などを行っています。ギターの生産量が世界一の信州で行われるイベント「信州ギター祭り」(※4)でPRさせていただいたり、金沢交響楽団さん(※5)の定期演奏会で団長さんにバイオリンを弾いていただくことも実現しました。団長さんには、バイオリンの音がとても馴染んでいると高い評価をいただき、たくさんのメディアにも取り上げていただきました。
石川県立図書館(※6)ではストリートピアノとして能登ヒバのピアノを置いていただき、皆さんの目に留まるような形で活用していただいています(2023年2月25日~5月31日まで設置)。石川県からも、同図書館で開催された「里山スタディツアー」という里山を学ぶイベントに声をかけていただき、音にフォーカスした講演をさせていただきました。

ピアノ工房カナザワ/ピアノ
このように、様々な形で「ATENOTE」の活動は確実に広がっています。当社はもともと外国材を取り扱っていた会社なので、「フルタニさんは国産材も取り扱っていたんだ」という認知もされることで、自社ブランディングにも繋がります。
2022年に企業コンセプトを変更し、「木の価値を届ける会社」としました。「ATENOTE」により能登ヒバの利用を促進することは、まさに当社が目指すべき「木の価値を届ける」ことです。今が創業のつもりで、「ATENOTE」を始めとする当社の事業を通して、これからも木の価値を届けていきたいと思っています。
※1金沢フォーラスHP:https://www.forus.co.jp/kanazawa (外部リンク)
※2島村楽器HP:https://www.shimamura.co.jp/ (外部リンク)
※3金沢ジャズストリート2022 HP:https://kanazawa-jazzstreet.jp/ (外部リンク)
※4信州ギター祭りHP:https://shinsyuguitar.wixsite.com/website (外部リンク)
※5金沢交響楽団HP:http://kso.or.tv (外部リンク)
※6石川県立図書館HP:https://www.library.pref.ishikawa.lg.jp/ (外部リンク)
■会社概要
フルタニランバー株式会社
代表者:代表取締役社長 古谷 隆明
創業:明治37年(1904年)
設立:昭和27年(1952年)8月2日
所在地:石川県金沢市湊1-86
電話番号:076-238-5633
事業内容:木材輸入販売(卸売・小売)、木材加工
取扱品:無垢板材(家具材・建具材・建築材)、集成材、フローリング、ランバーコア、芯材、丸太
取扱樹種:タモ、ナラ、ウォールナット、チーク、杉、桧、能登ヒバ等 国内外各種
受賞:高速木材乾燥技術「woodbe」2022年いしかわエコデザイン賞 大賞
公式HP:https://furu-tani.co.jp/ (外部リンク)
「ATENOTE」専用HP:https://atenote.com/ (外部リンク)
Facebook:https://www.facebook.com/furutanilumber/ (外部リンク)
Instagram:https://www.instagram.com/furutanilumber/ (外部リンク)

フルタニランバー株式会社
■編集後記
先日、石川県立図書館へ能登ヒバのピアノを見に行きました。子ども達がはしゃいで弾く姿、ピアノ上級者によるポップミュージック演奏など、人々が楽しむ姿がそこにありました。私は楽器が弾けるわけではありませんが、そんな筆者にも綺麗な音色は心に響き、能登ヒバの楽器がたくさん増えていくといいな、と思いました。
今回の取材を通して感じたことは、古谷社長ご自身の「好き」をヒントに、歴史ある会社の中で活性化事業を展開していくことは、まさにイノベーションであり、これからの木材会社が担っていくべき「社会課題の解決」におけるリーディングカンパニーとして相応しいということでした。主たる事業と並行して複数の新規事業や「ATENOTE」を展開していくことはそう簡単なことではないと思います。しかしながら事業のことを話してくださるその姿は、老舗木材会社の一社長に対して失礼な表現かもしれませんが、夢を語る少年のように輝いて見えました。「ATENOTE」により生み出された楽器達に魅せられる人が、これからますます増えていくのだろうと楽しみです。
■ライタープロフィール
サチコ(石川県金沢市在住)
製薬会社で営業として勤務した後、専業主婦として生活する。2児の母。自分の知る世界とは違う景色を見たいと思いエスダムスメディアJAPANに加入。個性的で魅力的な仲間に刺激を受けながらライター業の面白さ、難しさを体感中。でもSNSは未だに使いこなせない。
会社概要
代表者:山口 貴子
所在地:石川県金沢市森山1-2-1 FW202
業種:サービス業—PR業務
電話番号:050-3204-0372
関連URL
https://sdums.net/