「口」さえあればできる林業がある。「緑の砂漠」の存在を伝え、「森」を守る。森が大好きな私ができること。もりラバー 林業女子会@石川 代表 砂山 亜紀子さん特集

もりラバー 林業女子会@石川の代表として、また木材コーディネーターとしての活動を通じて人々に必要不可欠な「森」を守る

 エスダムスメディアJAPANでは「ベンチャー・女性の活躍・地方活性化」をキーワードとした特集記事を配信しています。今回のテーマは「女性の活躍・地方活性化」です。
 今回取材させていただいたのは、「もりラバー 林業女子会@石川」で代表を務める砂山 亜紀子(すなやま あきこ)さん。筆者が以前取材させていただいた、金沢市の木材会社「フルタニランバー」の古谷社長とのご縁でインタビューが実現しました。石川県羽咋郡の木材会社「株式会社 中野」で木材コーディネーターとして勤務する砂山さんに、幼少期から育んできた「森」への計り知れない愛情や、そしてその「森」を守るために砂山さんが「女性」だからこそできる活動を見出し「もりラバー 林業女子会@石川」を立ち上げ歩みを進めてきた軌跡をお聞きしました。

  • もりラバー林業女子会@石川

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    もりラバー 林業女子会@石川 代表 砂山 亜紀子さん

    【プロフィール紹介】
    砂山 亜紀子(すなやま あきこ)さん
    兵庫県出身。結婚を機に石川県金沢市に移住。もともと林業とは無縁の生活を送っていたが、ボランティアに参加したのをきっかけに、女性として初の金沢林業大学校2期生に。その後幾多の困難を乗り越え、女性ならではの視点で森を守るための活動を続けている。

    ・もりラバー 林業女子会@石川 代表
    ・株式会社 中野 木材事業部 木材コーディネーター
    ・森林施業プランナー、森林経営プランナー
    ・金沢市農林業振興協議会委員、金沢林業大学校運営委員 ほか
    ・白山市森林環境譲与税活用推進検討会委員

    林業女子会イベント オトメナ遠足

    -林業に興味を持ったきっかけを教えてください。

     もともとは林業とは無縁な生活を送っていました。20代、結婚を機に石川で暮らし始め、海も山も綺麗でごはんもおいしく、良い所だなと思っていました。
     実家の父の影響で登山が趣味で、山を遊ぶフィールドとして親しんでいたこともあり、ある時友人から山に恩返しをするためにボランティアをしないかと誘われたんです。登山者の靴の裏に種などが付着して移動し、高山性の植物が低地性の植物にやられて交配してしまうことが問題になっていて、その調査と除去を兼ねるボランティアに参加しました。
     その中で、「高い山だけが問題なのではなく、里山と呼ばれる私達の生活に近いところの山は、緑がたくさんあるように見えるが実はそうじゃないんだよ」と教えてもらいました。私はまったくその意味が理解できず、「???」の状態でした。そしてその話をきっかけに、里山保全のボランティアにも参加し、教わった言葉があります。「里山は、緑がたくさん広がっているように見えるけど、近付いてみると、人が入ることを拒むような『緑の砂漠だよ』」と。
     伐採等の適切な手入れがなされず密集した森林には、太陽の光や雨が適度に降り注ぐことができず、地面の植物の光合成がうまく行われないことから、動物や虫が入り込まなくなってしまいます。生き物の気配がなくなった山は、竹藪のバリケードのような、人が入ることを怖いと感じるような山なんです。近年の集中豪雨で起こる土砂崩れも、日光が届かず草木の根が張らないため、直接雨水が地面に当たり、根が水を吸いきれず発生しやすくなっていると言われています。
     そんな山が日本にはたくさんあります。離れて見るから緑豊かな山であるように見えるんです。ボランティア活動を通してそのことを教わりました。
     私はそんな大事なことを知らなかったなんて、と愕然としました。それと同時に、この事実をもっといろんな人に知ってもらいたい!と思ったんです。そのためには自分がより深く正しく知りたいと思い、どうすれば良いか模索していた時、金沢市が運営している金沢林業大学校という研修機関があることを知りました。その第2期生募集の時期(2011年)と自分が思い始めた時期が重なって、「ここに行けば勉強させてくれる、何か教えてもらえる」と思い、全く違う分野だった仕事を辞め、2年間研修に通うことにしました。
     研修は、林業の仕事のことはもちろん、人手不足の林業の担い手を作るための研修機関としての役割を担っています。また、山が抱えるさまざまな問題についても教えてくれる場です。人が出入りしなくなり境界線すら分からなくなっている山は、所有者が分からず整備しようにもできないという根本的な問題があることを教わりました。林業に携わる人々の暮らしをより良くするための研修もあり、原木シイタケを作ってみるなど、副収入を得るための多岐にわたる知識も教えてもらいました。

    カホンプロジェクトin金沢。地域の木材を使って打楽器を作るワークショッププロジェクト

    -女性の担い手が少ない中、林業大学校への入学も大変だったのではないですか?

     まずは門前払い状態でした。私は林業大学校2期生として入学した初の女性で、「トイレはどうする?着替えはどうする?」など、女性が入学することを想定していなかったと最初に言われました。私自身、持山があるわけでもないし、「卒業してどうするんだ?」ということも聞かれました。なんの根拠もなく、ただ熱い思いだけで当時の事務局の方に「私に教えてください!」と願書の締め切りまでに何度かお願いに行って。その度に思いが溢れて感極まる私を見かねて市役所に相談してくださり、遂には「そんなに言うならやってみる?その代わりきついと思うよ」と受け入れてくれたんです。

    -林業女子会を始めたきっかけを教えてください。

     当時、私は林業大学校修了後には林業の担い手になりたいと考えていました。業界の中で30代の動ける人材として、体力的にも多少の自信はありました。男女で分けるのではなく、「私を見てください!」という思いが当時は強かったんです。フィールドのプレーヤーとして、チェーンソーを自ら持って山で働きたいと。それが問題解決の方法だと思っていました。
     しかし当時の石川県には、現場の作業員に女性が極端に少なかった時代で、働きたいと申し出ても、受け入れる側が難しい状況でした。効率よくこなすことで利益が出てくる現場において、女性が入ることで効率が下がる、進捗が悪くなるということは、事業体にとってはマイナスでしかありませんでした。そういった理由で、私には働きたいという意思があっても、現場で働くことを拒まれてしまいました。
     しかし私はその時、林業に関わる事を諦めることができませんでした。私に何ができるかな?と考えた時に、「林業が抱えるさまざまな問題を知っている人がいない」、「大事なことだから伝えたい」、そういう思いに立ち戻ったんです。それならば伝えることはできるし、女性が女性の言葉で話すことで共感が生まれることもあります。男性中心の林業においては、女性や子どもが一番遠くに置かれていますが、その人達が変わらなければ今のままだと思ったので、私は「女性に伝える」という部分を担おう、と決意したんです。それで始めたのが林業女子会です。山で起こっていること、山がどれだけ私達の生活に大事なものであるかを伝えるとともに、私の後に林業を志す女の子がでてきたら、全力で応援したい!と。私にその道は拓けないかもしれないけど、全力で応援する。その思いで林業女子会を10年前に始めました。

    笑顔が素敵な砂山さん。大好きな森を守りたいという強い思いが原動力となり、もりラバー 林業女子会@石川を立ち上げた

    -林業女子会はどのような団体ですか?

    林業女子会イベント 森を祝う「みんなの夏至祭」

     林業女子会の団体が全国に24あり、石川はその7番目にあたります。
     「女性が女性に伝える」「100年先の森林を考える」そういう目的をもち活動している、お手本となる団体があったので、その石川バージョンとして10年前に発足しました。京都の学生さん達が始めた団体が最初だったんですが、その子達の取り組みを知った時に、「これなら私にもできる!」と思い立ち上げました。当時ボランティアの仲間や友人に声をかけ、4人で立ち上げました。
     「林業」と「女子」、ギャップのある言葉をくっつけたので、メディアの方が立ち上げの時から取材をしてくださいました。その甲斐あって林業女子会に入りたいと言ってくださる方が徐々に増えていき、100人弱くらいまで集まりました。
     全員が集まることはまずなく、定着したメンバーもいれば、自分の好きな時だけ参加するメンバーなど、いろいろです。女性だからライフステージによって参加できたり参加できなかったりする。それでも良いと思っています。林業女子会を始める時に決めたのは、「やれる人が、やれる時に、やりたいことだけをやればいい」。名簿も作らないし会費もとらない。大所帯になったわりにはこぢんまりしています(笑)。会則や役員も作らず、みんな横並びです。
     全国に24ある林業女子会では、構成するメンバーが県の職員さんや行政の職員さん、森林組合さんの職員さん、現場の作業員さんなど、現場にすごく近い人達が集まっていることが多いんです。石川だけが林業に関わっている人がほとんどいません。背景がみんなバラバラで、それぞれに思いがあって参加してくれています。林業に携わっていなくても、「口」さえあればできる林業があるということをコンセプトとした女子会です。石川の森を語り、石川の木材を使い、石川の林業を応援したい、そんな思いを持った女性達が集まっています。

    -活動内容を教えてください。

     「楽しい、かわいい、おいしい」をテーマに年に4回の主催イベントと、不定期で地域のイベントに出展しています。月1回の定例会では大好きな木や森の話をしながらの会議やイベント準備をしています。お喋りの中から、みんなの得意なことや好きなことが林業と結びつき、新しい「林業のカタチ」が生まれています。ボランティアで森づくり活動にも参加しています。

    林業女子会イベント おいしい林業(シイタケの収穫)

    -木材コーディネーターを始められたきっかけは何ですか?

     林業女子会の活動でいろんな所に顔を出していたら、今の職場の上司に誘われ、業務を増やそうと思っているからうちで働いてみる?と声をかけてもらい、7年前に今の会社で木材コーディネーターの仕事を始めました。林業を仕事にしたいと思うなら、実際に携わってみないと分からないこともたくさんあるよ、と。自宅のある金沢から事務所までは車で約1時間、現場は約2時間とかなりの距離がありますが、好きなことを仕事にしようと思ったらここしかなかったんです(笑)。
     木材コーディネーターは、山主さんから山を預かって、補助金を使いながら整備計画を立て、木を売って少しでも山主さんに現金をお渡しして、山を管理する仕事です。木は植えてから伐採までに約50年かかります。その間に世情が変わったり、後継者不足などの問題で伐採されずに残されている森林がたくさんあります。植えた時には「孫が学校に行き、就職できるように」という思いで植えられた木でも、そのままになってしまっているんです。
     私達はその森林を少しでも良い状態にして、植えた時の人の気持ちを忘れてはいけないと思い、仕事をしています。そして次の山を作っていくんです。昔の人のこと、次の世代の人のことを考えて仕事をしています。50年はやはり長く、世代が変わってしまいます。次の収穫は多分見れないと思います。だとしたら、今やった方が良いと思う最善を尽くすために、今一生懸命考えるんです。その答えが出るのが50年後。そこにすごく責任を感じるし、やりがいを感じています。

    林業女子会イベント タケノコHoliday

    ■編集後記
     砂山さんにお聞きしたお話の中に滲み出ていた「森」に対する愛情は、砂山さんがとった険しい道のりの行動すべての根拠であると納得するものでした。「森が大好き!」という気持ちが原動力となり、「女性だからできない」ではなく、「女性だからできる」という、砂山さんらしい新たな方法で森を守る活動を続けていくその姿を、同じ女性としてとても素敵で格好良いなと感じました。この記事を作成しているまさにその時、石川県白山市全域が対象の自然公園「白山手取川ジオパーク」が、世界的に貴重な地形や地質をもつ自然公園「ユネスコ世界ジオパーク」に正式認定されました。石川の自然が世界に認められた感動は、これからの自然を守っていくための更なる原動力になると同時に、私を含め、たくさんの人々が自然への興味を更に高めていくきっかけになると良いなと思いました。

    ■ライタープロフィール
    サチコ(石川県金沢市在住)
    製薬会社で営業として勤務した後、専業主婦として生活する。2児の母。自分の知る世界とは違う景色を見たいと思いエスダムスメディアJAPANに加入。個性的で魅力的な仲間に刺激を受けながらライター業の面白さ、難しさを体感中。でもSNSは未だに使いこなせない。

    会社概要

    エスダムスメディアJAPAN株式会社

    代表者:山口 貴子

    所在地:石川県金沢市森山1-2-1 FW202

    業種:サービス業—PR業務

    電話番号:050-3204-0372

    URL:https://sdums.net/

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